主演のみならず、プロデューサーとしても本作に関わるサルマン・カーンは「この映画は、ヒンドゥー教とイスラム教、インドとパキスタンの対立を終わらせる可能性を秘めている」と述べている。しかし、作品中に、政治家は一切登場せず、対立の歴史を取り入れることもしない。この宗教的・政治的問題をコメディとロマンスを織り交ぜながら、インドで迷子になったパキスタンのイスラム教徒の少女シャヒーダーを、インドのヒンドゥー教徒であるパワンが、パスポートも旅券もなく、無謀にもパキスタンに入国し、両国の人々の協力に支えられ、少女を家に届けるという「愛の物語」によって伝えようとした。
サルマン・カーンは自らが演じた主人公のパワンを「とても単純で、純情な男でありながら、とても強い男であり、全ての人に敬意と愛を抱き、嘘をつかず、何も悪いことをしない男」と評し、この役に惹かれたと語っている。映画批評家、監督、共演者だけでなく、彼自身が語っているように、この映画は今までの彼の演じた役とは異なっている。サルマン・カーンは肉体美に裏付けされたインドを代表するアクションスターで、インドの映画ファンからは“サルマーン兄貴”と慕われてきたが、本作に関して「今まで出演してきた作品の中で、最も素晴らしい映画だと思う。これまでのイメージを捨てて、観て欲しい」と語っている。この映画は、彼にとって、これまでのイメージを一新する大きな挑戦であったが、結果、彼の最高傑作と評価され、その挑戦は見事に結実した。
監督のカビール・カーンは「シャヒーダーは最も重要な役で、キャスティングを間違えれば製作は困難になる。そこには覚悟が必要だった」と語っている。声を出せない6歳の少女シャヒーダーには、眼と表情だけでの演技が求められ、セリフはラストシーンの「おじさん」と「ラーマ万歳」だけである。
この役には、5,000人の中からオーディションで選ばれたハルシャーリーが抜擢された。2008年生まれの彼女の実年齢も当時6歳で、テレビドラマの子役やコマーシャル等に出演していたものの、映画出演は初めてだった。監督はハルシャーリーに多くの演技指導をしたが、その中で彼女は成長し、素晴らしいパフォーマンスを示した。作品中で見られるように、眼と表情だけで喜怒哀楽を表現する彼女の演技は誰もが称賛するだろう。共演のサルマン・カーンは「彼女と一緒に演技ができて、素晴らしい時間になった。6歳にして俳優が必要な全てのものを持っている」と絶賛。
この映画によって、いくつかの最優秀子役賞を獲得し、テレビ取材が殺到し、その中でハルシャーリーは、時に恥じらい、時に戸惑いながらも、素顔の自分を語っている。次回作は、現在製作中のの“Nastik”で、警官の人生観に影響を与える子役を演じている。
「この映画は旅の物語でもある」と監督のカビール・カーンが語っているように、インド各地でロケが敢行された。脚本を執筆する中で、すでに撮影はセットではなく、ロケを想定していたとも言う。砂漠や山や渓谷といったインドの美しい自然を観ることができることも、この映画のひとつの魅力になるだろう。
国境を超える砂漠のシーンとパキスタンの町中は、それぞれラジャスタンのタール砂漠とマンダワでロケが行われた。
この映画の中で、最も自然の壮大さを見せるのは、雪山を背景にしたシーンである。ロケ地にはインドの北部、この世の天国と呼ばれるカシミールの山岳地帯が選ばれた。山岳地帯へのアクセスは容易でなく、悪天候が5日間続いたこともあり、スタッフも俳優も寒さに悩まされた。監督が「冒険」と言っているように、撮影は困難を極めたが、自然の壮大さの中で、楽しく撮影は行われた。
シャヒーダーの故郷スルターンプルはカシミールのパハルガンでロケが行われた。遠くに雪山を臨み、果てしなく広がる緑の草原は、景色の雄大さだけではなく、人々の心の雄大さも感じさせてくれる。雪に覆われた渓谷の国境を越え、パワンがインドに帰るラストシーンにはカシミールのソナマルグが選ばれた。雪に覆われたシーンの予定が、一部で雪が解けてしまい、雪を撒いてそのシーンを作ったという。約7,000人ものエキストラに囲まれ、感動的なラストシーンの撮影が行われた。
本作で音楽監督を務めたのは、ボリウッドで活躍するプリータム。手がけた作品が次々ヒットし、先ごろ日本でも公開された「ダンガル きっと、つよくなる」では、異例ともいえる日本版のサウンドトラックが発売された。
シャヒーダーとパワンが訪れるイスラム寺院の場面では、イスラムの宗教音楽カッワーリが使われるなど、インド、パキスタンの音楽文化の融合になっている本作の音楽では、冒頭の群舞シーンの’Selfie Le Le Re(セルフィーを撮ろう)’では、「恋する輪廻 オーム・シャンティー・オーム」の音楽監督を務め、ロックバンドのボーカルとしても活躍する、ヴィシャール・ダッドラニがパンチの効いた歌声を響かせ、パワンとラスィカーの恋を彩る“Tu Chahiye(君にいてほしい)”を歌うのは、パキスタンの大人気ロックシンガー、アティフ・アスラムなど、インドとパキスタンの人気アーティストが集結している。