2019年にインド映画の特集上映「インディアンムービーウィーク」で初上映された政治スリラー『サルカール 1票の革命』(2018)は、政治腐敗に切り込み、主人公の行動を通じて選挙の在るべき姿を伝える作品として、観客の間で話題となった。この作品を撮ったのは、社会的メッセージを娯楽作に落とし込むことの巧みさで定評のあるA・R・ムルガダース監督で、南インド・タミル語映画界でラジニカーントと興収トップを奪い合う人気俳優ヴィジャイが主役を務めた。同作の前に2人が組んだのが、この『カッティ 刃物と水道管』だ。ヴィジャイのキレのあるアクションやダンス、ヒロインとの恋も盛り込み、多国籍企業による環境破壊問題と農民の窮状、それを報じない報道機関の責任を世に問う。娯楽作品には厳しい批評家たちから絶賛され、ファンの間から日本公開が待ち望まれてきた作品が、いよいよスクリーンに登場する。
コルカタの刑務所から脱獄したタミル人の詐欺師・泥棒の“カッティ(刃物)”ことカディル。この男には、建物や都市の平面図(劇中でブループリントと称される)からその立体的な構造を透視できる特殊能力がある。脱獄にもこの特技を使ったのだ。彼はひとまずチェンナイに逃げて、そこからバンコクへの高跳びをはかるが、空港で出会った女性アンキタに一目惚れして出国を止めてしまう。その夜、街路を歩いていた彼の目の前で突然銃撃事件が起きる。カディルが撃たれた男のもとに駆け寄ると、その負傷者は彼と瓜二つの見た目だった。カディルは悪知恵を働かせ、そのジーヴァという男を自分の身代わりにして追っ手に捕まえさせる。自由になったカディルだが、ジーヴァが取り組んでいた地方の農民が直面する問題を知ると、その心に変化が起き、ジーヴァの活動を引き継ぎ、農民たちの先頭に立って多国籍企業のトップと対決する。