INTRODUCTION

インド映画界の新スーパースター
“大将”ヴィジャイが踊る!闘う!生徒を守る!
超人的なカリスマ性と身体能力を誇り、満を持して登場すると無数の敵をなぎ倒す。
キレキレのダンスや歌唱を披露して、ヒロインも周りの人々も夢中にさせる漢っぷりを振りまく伊達男の主人公。様式美ともいえるお約束で観客を熱狂させてきたインド娯楽アクション映画界。その中で『ムトゥ 踊るマハラジャ』『ロボット』等で日本でも知られるラジニカーントの次を担うスーパースターとして、いま最も頂点を極めているのが、本作の主演ヴィジャイだ。“大将”という愛称で親しまれ、インド:タミル語映画界の寵児となったヴィジャイの64作目となる本作は、2021年にインドで公開され、同年の年間興収ランキング3位の大ヒットを記録した。
インド娯楽アクションの
サービス精神の神髄を体感せよ!
足元やシルエットで散々に観客を焦らしての初登場シーン。決め台詞を口にして悠然と歩み去るシーンで多用される仰角のスローモーション。本作はそんな完全無欠のヒーローのお約束をしっかり押さえながらも、それに対抗しうる強烈な悪役、バワー二に、スター映画とは縁遠い演技派として“タミル民の宝”の愛称で人気を集めるヴィジャイ・セードゥパティを配した対極的なWスターキャストとなっている。
監督は、『囚人ディリ』でスタイリッシュなアクションノワールを描く作家性が注目を集めたローケーシュ・カナガラージ。
共に大衆に愛されるスーパースターと演技派スターの競演、お約束満載のスター映画を作家性の高い監督が手掛ける事が、インド映画ファンの注目を集める話題となり、本作の大ヒットを生み出した。
伝統を踏襲しながらも、常に新たな視点を取り込んでいくインド娯楽アクション。その徹底したサービス精神の神髄を体感してほしい。

STORY

少年たちの自由を賭けて
完全無欠な善vs強烈な悪が
激突する!
名門大学で心理学を教えるJD(ヴィジャイ)は、アル中気味の名物教授。大学の上層部からは何かにつけて批判されるが、腕っぷしの強さと、型破りな行動力で学生たちからは大人気だった。
ある日、生徒たちと彼が実施を主張した学生会長選挙で暴動が起きたため、JDは責任を負い、休職して地方の少年院に赴くことになった。
しかし、そこはギャングのバワーニ(ヴィジャイ・セードゥパティ)の支配のもと、少年たちが薬物漬けにされて犯罪行為に従事させられていた。
バワー二は、10代のころに両親をギャングに殺されて保護施設に送られ、辛酸を舐めた末に、自身がギャングの元締めとなった冷酷非道な男。
運送業という表向きの商売の裏で、あらゆる犯罪に手を染め、敵や裏切り者を容赦なく殺し、さらなる支配を固めるために政治家になろうと計画していた。
一方、少年院で次第に信頼を得ていくJDだったが、バワーニの支配から逃れるために助けを求めようとした2人の兄弟がバワーニに残酷に殺される。
これにショックを受けたJDは、アルコールを断ち、バワーニの支配を終わらせ少年たちを更生させようと立ち上がる…

CAST

ヴィジャイ/JD >
ヴィジャイ・セードゥパティ/バワーニ >
マーラヴィカ・モーハナン/チャールラタ >
アルジュン・ダース/ダース >
ヴィジャイ/JD
1974年チェンナイ生まれ。フルネームはジョーセフ・ヴィジャイ・チャンドラシェーカル。映画監督の父とプレイバックシンガー(映画の挿入歌を歌う歌手)の母の間に生まれ、10才の時に父の監督作品で子役としてデビュー。18才で同じく父が監督を務める作品で主役としてデビューした。
それからはロマンス映画への出演が続いたが、2003年の大作アクション『Thirumalai』(未)でアクション中心の娯楽映画の大スターへの道を歩み始め、翌2004年の『百発百中』のメガヒットによってその地位を盤石のものとした。1994年以降、クレジットに“若大将(Ilaya Thalapathy)”の通称を付けるようになったが、2017年からは“大将(Thalapathy)”に変わっている。愛嬌のある童顔と対照的な高い身体能力でみせるアクションと巧みなダンスは、南インドトップクラスとの評価を受け、タミル語映画界でラジニカーントを継ぐスーパースターとなった。
日本では『ジッラ 修羅のシマ』(14)『サルカール 1票の革命』(18)『ビギル 勝利のホイッスル(19)などが映画祭で上映されている。
ヴィジャイ・セードゥパティ/バワーニ
1978年、タミルナードゥ州生まれ。大学卒業の後、一般企業で働くが、役者としての道を諦めず2003年から劇団で下積み生活を送る。2010年に初主演を飾り、2012年に悪役を演じた『Sundarapandian』(未)、主演作『ピザ 死霊館へのデリバリー』『途中のページが抜けている』のヒットによって注目を集める。以降『キケンな誘拐』(13)『女神たちよ』(16)など、意識的に新進監督たちと組んで演技派スターとしての地位を確立した。2016年からは“タミル民の宝(Makkal Selvan)”という通称を得て今日までクレジットに表記されている。
マーラヴィカ・モーハナン/チャールラタ
1993年、ケーララ州生まれ。父は『盲目のメロディ インド式殺人狂想曲』(18)などを手掛けた撮影監督のK・U・モーハナン。『Pattam Pole』(13/未)のヒロインで映画デビュー。イランのマジッド・マジディ監督が手掛けた『Beyond the Clouds』(17/未)でヒンディー語作品に初出演。本作の大ヒットで注目が高まり、今後はスター俳優との共演が予定されている。
アルジュン・ダース/ダース
1990年、マハーラーシュトラ州生まれ。役者を志し、最初は自身の特徴を活かしたラジオ番組のDJジョッキーとなり、2012年に実験的な低予算映画『Perumaan』(未)の主役で俳優デビューした。悪役を演じた『囚人ディリ』(19)で注目を浴び、南インド国際映画賞で最優秀悪役賞を受賞。ローケーシュ監督作品には、本作と『Vikram』(22/未)と続けて出演しているほか、今後は主演作品も予定されている。

STAFF

監督:ローケーシュ・カナガラージ
1986年、タミルナードゥ州生まれ。20代半ばに映像作家を志し、鬼才カールティク・スッバラージ監督がプロデュースしたアンソロジー映画『Aviyal』(16/未)の中の1本を手掛けることによってデビュー。翌年の『Maanagaram』(17/未)は初の長編劇映画。その後2年半の製作期間を費やした『囚人ディリ』(19)の大成功に続き、本作の大ヒットによって一躍トップ監督の一人となった。
インド:タミル語映画界でラジニカーントとならぶ大御所俳優カマル・ハーサンの大ファンで、2022年には憧れのカマル・ハーサンを主役に据えたスリラー『Vikram(ヴィクラム)』を送り出し、同作は興行収入がタミル語作品歴代2位を記録する大ヒットになった。

PRODUCTION NOTE

作家性とスター映画の
絶妙なバランス
インド:タミル語映画のスター作品は「スター・フォーミュラ」とでも呼ぶべきお約束が満載なのが常だ。ヒーローは超人的なカリスマを持ち、身体能力でも倫理性でもずば抜けた存在として描かれる。初登場のシーンではいきなり顔を出さず、まず足元やシルエットが映され、散々に観客を焦らした上で満を持して登場し、紙吹雪タイムとなる。敵役に対して決め台詞を口にした後に悠然と歩み去るシーンでは、仰角のスローモーションも多用される。若く美貌のヒロインは、時には1人では足りず2~3人も登場する。歌唱やダンスは少なくとも4曲、無数のスタントマンをなぎ倒すアクションシーンは、途中休憩を挟んでの前後半に最低でも各1回は必要だ。そして、リアリティーを犠牲にしてでも組み込まれるのが、ヒーローを演じる俳優の過去作品やプライベートでの逸話に関する言及、つまり楽屋落ちだ。コメディアンも重要な存在で、やはり過去の人気映画からあれこれと引用したギャグでウケをとり、また時にはヒーローのファンの代表であるかのようにヒーローを褒め讃えて崇拝する台詞を口にすることもある。これまでのヴィジャイ主演作は概ねこのスタイルで作られてきた。ローケーシュ・カナガラージ監督が脚本に関する打ち合わせをヴィジャイと最初に行った際に、ヴィジャイはこれら全てを放棄してもいいと申し出たとされる。ローケーシュ監督はここで大きな裁量権を持ったことになる。自身の追求するストイックなノワール世界を全面的に展開することもできたが、彼は最終的にヴィジャイのファンを喜ばせるためのあれこれと、自身の美学の表現とを50:50にしてみたとインタビューで語っている。
対照的な2大スターの競演
本作のオープニングでは、まず主演のヴィジャイの名前が“大将(Thalapathy)”の通称と共に現れる。直後に、全く同じスタイルでヴィジャイ・セードゥパティの名前が“タミル民の宝(Makkal Selvan)”という通称と共に現れる。ロゴには、作中でヴィジャイが演じるJDのテーマカラーである青、ヴィジャイ・セードゥパティが演じるバワーニのテーマカラーである赤があしらわれている。これは、劇中でのJDとバワーニ、そしてヴィジャイとヴィジャイ・セードゥパティが完全に互角の存在であることを表していると言えるだろう。オープニング・クレジットで主役と悪役がこれだけ対等に扱われるのは、インド映画では実は珍しいことだ。ヒーローが最終的に勝利するのはインド娯楽映画の決まり事だが、その枠組みの中で悪役を最大限に力強く描くことに心を砕いたと、ローケーシュ監督は後に語っている。バワーニ役のキャスティングにあたって、ローケーシュ監督はヴィジャイ・セードゥパティが最適と考えていたが、ニューウェーブ系のクリエイティブな作品に主演する彼に悪役をオファーすることを逡巡していた。ヴィジャイもまたオファーが受け入れられるかどうかについては悲観的だった。2人が他の俳優を検討し始めた時、どこからか話を聞きつけたヴィジャイ・セードゥパティ自身から「ともかくストーリーを聞きたい」と申し出て、監督との面談の後に出演を承諾したという。こうして最凶の悪役が誕生した。インド:タミル語映画界の頂点にいるヴィジャイが、同じタミル語映画界でも異なるカテゴリーの人気者であるヴィジャイ・セードゥパティに配慮をしたという珍しいエピソードである。ヴィジャイはプロジェクトがスタートしてからも、全てのポスターに「大将ヴィジャイ+タミル民の宝ヴィジャイ・セードゥパティ」が必ず並置されるようにと指示を出していた。
大スター奇跡のツイート
近年、出演作に明確な政治批判を込めるようになってきたヴィジャイには、その人気ゆえに政治的な立場からの批判者も目立つ。その急先鋒がタミルナードゥ州の2大政党の1つAIADMK党(本作当時:州の与党)と、中央で同党と連立するBJP(インド人民党:国政与党)の支持者たちだ。

本作の撮影の終盤、2020年2月5日に、タミルナードゥ州の税務局は、脱税の疑いでチェンナイにあるヴィジャイの住居を家宅捜索した。このためヴィジャイは撮影を一時中断し、ロケ先から急遽チェンナイに戻らざるを得なくなった。結局この家宅捜索では疑わしいものは見つからず、約1か月後に当局はヴィジャイが適正に納税していたことを公式に発表した。多くの人々は、ヴィジャイがAIADMK党やBJPに批判的であったことから家宅捜索のターゲットにされたのではないかと考えた。その2日後の2月7日、税務局の査察への対応を終えたヴィジャイがロケ現場に戻ると、今度はBJP支持者の一群が撮影の妨害を始めた。ロケ地のネイヴェーリは石炭採掘・火力発電を行う政府系企業NLCの所在地で、撮影クルーは正式な申請を行い、規定の使用料を払ったうえでロケを行っていたが、抗議者たちは、そもそも国防の要となる発電所という施設で映画撮影が行われるべきではないと主張し、ピケを張った。すると2月9日には、抗議活動のことを知ったネイヴェーリに住む市民、近隣のヴィジャイのファンなどが続々とNLCに集まって、ヴィジャイへの連帯を表明した。これに感激したヴィジャイは、撮影用の車に上り、集まった大群衆と共にセルフィーを撮って、その画像を自身のツイッターに「ありがとう、ネイヴェーリ」という文言と共に投稿した。大スターが普通は行わないこのツイートは怒涛のバズとなり、23万回を超えてリツイートされ、2020年のインドでのトップツイートになった。