INTRODUCTION

2003年、インドの片田舎で始まった教育プログラムが全世界の賞賛を浴びた。天才的な数学の頭脳を持ちながら、貧しい生まれのためケンブリッジ大学への留学を諦めたアーナンド・クマールが始めた私塾:スーパー30。全国の貧しい家庭から優秀な頭脳を持つ30人を選抜して、無償で食事と寮と教育を与えるというこのプログラムは、開始した年から、世界三大難関試験の一つと言われる、インド最高峰の理系大学“IIT(インド工科大学)“へ塾生を送り込むという快挙を成し遂げた。その後、毎年20人前後が合格。2008年から3年にわたって30人全員を合格させて、いまなお続いているこのプロジェクトに、世界中のマスコミが注目して絶賛の声が寄せられたのだ。

本作は、この奇跡の実話に基づき、貧困に夢を奪われながらも、世界を変えようと奮闘する1人の男の情熱と、劣悪な環境でも諦めない30人の生徒たちの学ぶことへの喜びをエンタテイメント性豊かに描きながら、やがて学ぶ権利の本質、身分制度と格差社会の問題を浮き彫りにしていく。意欲と能力があっても、貧しさゆえに学ぶ権利が奪われ、格差社会の壁に苦しむ子供たち。旧来の身分制度によって「王の子供だけが王になれる」という考えが今も残るインドだが、それは、“親ガチャ”という言葉が流行して、国会にも取り上げられるほど格差が進行する日本の姿にも重なる世界的な問題だ。運営資金が底をつき、空腹に苦しみ、マフィアに襲撃されながらも、型破りな授業を続けるアーナンドと30人の生徒たち。能力はあっても、劣等感を持つ生徒に「もう王の子供は王じゃない。王になるのは能力ある者だ」と語り、自信を持たせ、一緒に夢を実現しようとするアーナンドの姿は、あなたに世界を変える希望を与えてくれるだろう。

出演は、2018年に“世界で最もハンサムな男性ランキング”で6位となったインド映画界のイケメンスター、リティク・ローシャン。これまでの作品で見せてきたスターオーラを消し去って、実在の人物であるアーナンド・クマールをリアルに演じている。

STORY

貧しい家庭の生まれながら天才的な数学の才能を持つ学生、アーナンド(リティク・ローシャン)は、ある日、数学の難問の解法をケンブリッジ大学に送ったところ、その才能が認められ、イギリス留学のチャンスを得る。だが、貧しい家計から費用が出せず、当てにしていた援助もすげなく断られ、「王になるのは王の子供じゃない。王になるのは能力のある者だ」と、いつも彼を励ましてくれていた父親も心臓発作で亡くなってしまう。

留学を断念した失意のアーナンドは、町の物売りにまで身をやつすが、IIT(インド工科大学)進学のための予備校を経営するラッラン(アーディティヤ・シュリーワースタウ)に見いだされ、たちまち学校一の人気講師になり、豊かな暮らしを手に入れた。

そんな中、貧しさゆえに路上で勉強する一人の若者との出会いが、アーナンドの心に火をつけた。突如として予備校を辞めた彼は、才能がありながら貧困で学ぶことができない子供たち30人を選抜して、無償で家と食事を与えて、IIT進学のための数学と物理を教える私塾、スーパー30を開設したのだ。

私財を投げ売ったアーナンドは、資金に苦しみ、教育をビジネスとしか考えないラッランから様々な妨害を受けながらも、型破りな教育で、生徒たちに自信を持たせていく・・・

PRODUCTION NOTES

教育プログラム
SUPER30の功績
SUPER30は2003年 に、数学者アーナンド・クマールと警察官アバヤーナンドが始めた教育プログラム。毎年、経済的に恵まれない30人を選抜し、無料でインド工科大学(IIT)の入試対策を指導する。選抜された30人には、1年間、寮や食事や教材等も全て無償で提供され、30人の中から、競争率100倍以上と言われるインド工科大学に、毎年20人前後が合格し、2008 年、2009年、2010年、2017年には、30人全員が合格した。  2010年、アメリカの「タイム誌」は、Super 30をアジアで最も優れた学習塾と評し、「ニューズ・ウイーク誌」は、世界で最も革新的な4つの教育機関の一つとした。さらに、オバマ大統領の特使は、インドで最も優れた教育機関であると称賛した。さらに2009年、アメリカのディスカバリーチャンネルがSUPER30の1時間半のドキュメンタリー番組を放映。NHKの「インドの衝撃:わき上がる頭脳パワー」(2007年1月28日OA)でも取り上げられている。
実在のアーナンド・クマール
1973年にインド:ビハール州で貧しい家庭に生まれた。私立学校に通うことができず、公立学校に通うが、数学に興味をもち、才能にも恵まれ、数論に関する論文がケンブリッジ大学のMathematical Spectrumに掲載される。この論文が評価され、入学が許可されたものの、渡航費用を工面することができず、父も心臓発作で他界してしまったため、ケンブリッジ大学で研究する道を諦めざるを得なかった。父が亡くなった後、彼はパーパル(豆煎餅のようなもの)を売って、生計を支えた。 1992年、天才的数学者ラーマーヌジャンの名をとった「ラーマーヌジャン数学学院」を設立し、数学を教え始める。才能はあっても、貧困により授業料が払えない若者のために、2003年に教育プログラムSUPER30を始める。その運営資金に関して、彼は政府からも企業からも個人からも寄附を受け取らず、「ラーマーヌジャン数学学院」から得られる収益金を当てている。 アーナンドの功績は、インド政府や州から多くの教育賞を受賞し、雑誌にも多く取りあげられた。ドイツの「フォークス誌」は、優秀な人間を育てる人物の一人に選び、イギリスの「モノクル誌」は、世界で活躍する20人の先駆的な教育者の一人に選んだ。本作の影響について、彼はインタビューの中で「インドの親は、子供に良い教師を求めていても、将来、子供が教師になることは望まず、エンジニアや医師になることを望んでいた。しかし、この映画を観た多くの人たちから、子供が教師になることを望んでいると聞いた。これは大きな変化だ」と語っている。また、教育について「インド工科大学入試に特化しているわけではなく、どんな分野であれ、意欲をもった貧しく子供たちを助けたい。それが長年の夢である」と語っている。
インド最高峰の理系大学:
インド工科大学(IIT)
劇中で30人の生徒が入学を目指すインド工科大学(Indian Institute of Technology:IIT)は、理系国立大学の総称で、マドラス校、カーンプル校、ボンベイ校を始め、インドの主要都市に23校存在する。1951年、インド初代首相のジャワハルラール・ネルーが第1校を西ベンガル州のカラグプルに開設した。国の重要な研究機関で、科学者や技術者を養成し、その研究水準の高さは国際的にも高く評価されている。合格率は約1%で、不合格者はアメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)に入学するとまで言われている。本作でも描かれているように、インド工科大学入試に特化した予備校が多く存在する。 卒業生にはスンダル・ピチャイ(Sundar Pichai:グーグルの現CEO)、ナーラーヤナ・ムールティ(Narayana Murthy:インフォシス設立者)、ニケーシュ・アローラー(Nikesh Arora:ソフトバンクの元副社長)をはじめ、世界のITトップ企業で活躍する多くの人材がいる。日本のIT企業でも多くの卒業生が活躍し、日本在住者のインド工科大学同窓会も結成されている。インド工科大学については、NHKで「インドの衝撃:わき上がる頭脳パワー」(2007年1月28日OA)、「狭き門への夢」(2018年9月26日OA)、「インド“世界最高の頭脳”を獲得せよ:密着! 就職面接会の3日間」(2019年4月6日OA)のドキュメンタリー番組が放映された。
事実を演じる31人の主役たち
2018年に“世界で最もハンサムな男性ランキング”で6位となったリティク・ローシャンは、これまでは、そのイメージ通り、ヒーローやロマンス作品の主人公を中心に演じてきた。初めて実在の教師を演じた本作は、彼のフィルモグラフィの中でも、異色の出演作品となった。 本作について「この映画は希望の映画だ。脚本を読んだ時、やらなければならないと感じた」と語る彼は、実在の人物を演じるにあたって、肌の色を変え、体重を増やし、本人の声を何度も聞き、ビハール訛りのヒンディー語を習得するため、毎日2時間から3時間の特訓をしたと言う。こうした苦労を重ねたリティク・ローシャンだが、「本作の主役は30人の生徒」とインタビューで語っている。アーナンドを囲む30人の生徒にリアリティを出す事は、本作で最も重要なものとなった。『バジュランギおじさんと、小さな迷子』(15)のキャスティングも担当したムケーシュ・チャーブラーがキャスティングディレクターを務め、実際にスーパー30が始まったビハール州を中心に、15歳から17歳までの演技経験のない15,000人以上の子供のオーディションを行った。最終的に78人に絞り、ワークショップを行った上で30人が選ばれた。彼はインタビューで「実際の生徒に見えるよう、村やスラム街やNGOにも足を運んだ」と語り、細かい演技よりも、自信を持って演技することを求めたと言う。30人の生徒の中には、アーナンド本人の実際の生徒も含まれている。

CAST&STAFF

リティク・ローシャン
アーナンド・クマール
1974年、ムンバイ生まれ。父はプロデューサー・監督・脚本家・俳優であるラケーシュ・ローシャン。母方の祖父もプロデューサー・監督の映画一家に育つ。1980年、祖父J・オーム・プラカーシュ監督作品に初出演し、以後1980年代は子役やダンサーとして出演。その後、父の映画製作も手伝いながら、2000年に初の主演作となる『Kaho Naa... Pyaar Hai(言ってくれ…愛していると)』 (未)が大ヒットし、年間興行成績第1位となった。さらには、インドの権威ある映画賞、フィルムフェア賞等で新人賞と主演男優賞など46の映画賞を受賞した。その後も『家族の四季 -愛すれど遠く離れて-』(01)『人生は二度とない』(11)『クリッシュ』(13)などのヒット作に出演を続け、ボリウッドを代表するスター俳優の一人となった。2019年に公開された『WAR ウォー!!』は、ヒンディー語作品のインド年間興収1位となり、日本でも公開された。
ムルナール・タークル
スプリヤー
1992年生まれ。2012年からテレビドラマに多数出演し、2014年にマラーティー語映画でスクリーンデビュー。ヒンディー語映画は『Love Sonia』(18/未)、『Batla House』(19/未)に出演。本作にはオーディションで選ばれ、ビハール訛りのヒンディー語を習得するため、2ヶ月半練習したという。姉がリティク・ローシャンの大ファンで、自身も映画を観ていたため、共演が決まった時には想像もできなかった、とインタビューで喜びを爆発させていた。
アーディティヤ・シュリーワースタウ
ラッラン・シン
1968年生まれ。1990年代初頭からテレビドラマに出演し、『女盗賊プーラン』(94)で映画デビュー。その後、多くの映画に存在感のある脇役として出演を続けている。その他の出演作は『ブラック・フライデー』(07)『Gulaal』(09/未)など。
パンカジ・トリパーティー
ラーム・シン
1976年生まれ。専門学校を卒業しホテルで働いていたが、夢を捨てきれず、デリーにある国立演劇学校に進む。2004年の卒業後から、端役として映画に出演。これまで60作以上の映画に出演し、ヒンディー語映画界で注目を集める名脇役の一人となった。
監督 : ヴィカース・バハル
1971年生まれ。2005年から映画製作に関わり、長編監督デビューは、『ダンガル きっと、つよくなる』の監督ニテーシュ・ティワーリーと共同で監督した2011年の『Chillar Party(ちびっこギャング)』(未)。この作品では脚本も担当し、インド国家映画賞の最優秀脚本賞と最優秀作品賞(子ども映画部門)を受賞した。脚本と監督を担当した『クイーン 旅立つわたしのハネムーン」(14)は、フィルムフェア賞等、多くの映画賞で最優秀監督賞、作品賞を受賞。日本でも公開され代表作となった。本作はバハル監督にとって4本目の長編監督作品となり、今後はタイガー・シュロフ主演作、アミターブ・バッチャン主演作などスター作品が予定されている。